Quality Firstを追求するマキノの思い描く マニュアルを現実のものとしてくれる

牧野フライス製作所のチャレンジ

製品とサービスの“Quality First”を標榜する牧野フライス製作所は、マニュアルの品質の高さも定評ある。同社はマニュアル制作のプロセスをシステム化によって刷新。顧客へのマニュアルの提供手段も電子化し、製品価値を高める新たな顧客情報サービスとして確立することに成功している。

MDS推進室 技術管理グループ マネージャ
永友朝史様

MDS推進室 技術管理グループ
ドキュメントチームリーダ
横山佳代子様

Quality Firstの追求がシステム化検討のきっかけ

株式会社牧野フライス製作所(以下、牧野フライス)は国内外を代表する工作機械メーカだ。国内外の自動車・航空機といった基幹産業を担うお客様を中心に、モノづくりのための製品とサービスを提供している。

同社の強みとなっている社是は製品・サービスにおける“Quality First”である。製品・サービスだけでなく、ユーザが利用する製品のマニュアルについても、同様に品質を追求していると語るのはMDS推進室 マネージャの永友朝史氏だ。
「牧野フライスが誇るのは製品だけではありません。取扱説明書や定期保守説明書といったマニュアルも、お客様からほかのメーカに比べて情報が多く、情報品質も高いと定評をいただいています。マニュアルにおいても、我々は“Quality First”を追求しています」(永友氏)。

牧野フライスは多くの種類のマニュアルを提供し、利用情報の提供の面でも、顧客満足度の向上を実現しており、お客様が欲する痒いところに手の届く潤沢な情報を提供しているが、永友氏は課題も感じていたという。コンテンツが豊富であるほど、お客様は情報を探しづらくなる。そこで、お客様が主体的に情報を取りにいかなくても、必要な情報をこちらから提供する仕組みが重要だと考えたという。「お客様がマニュアルを必要とするシチュエーションはさまざまです。自分から欲しい情報をとりたい場面、お客様に対して機械側から情報が提供されるべき場面など、さまざまなシチュエーションに、気の利いた対応ができているのが牧野フライスのマニュアルでありたいというのが、一番の思いでした」(永友
氏)。

さまざまなシチュエーションにあるお客様に対して、検索やプッシュで情報を提供できる仕組みは、マニュアルを電子化することで、はじめて可能になる。同社はそれまでAdobe FrameMakerまたはMicrosoft Wordでマニュアルを作成していたが、これらは印刷前提のツールであり、Webページをつくるためのツールではないので、新しい仕組みに置き換える必要が出てきた。

そして、永友氏の出したアイデアは、機械の操作盤ディスプレイに表示された2次元バーコードを読めば、シチュエーションに応じたWebマニュアルが表示されるというものだった。このサンプルを展示会に出したところお客様からの評判が非常によく、その後トップダウンでのシステム化の動きへと繋がった。

5社のコンペを行い、WikiWorksを選択

お客様にとって利便性の高い情報の形態には動画やVRなどもある。実際、お客様からの要望もあり、電子化の検討は具体化していった。そして、システム化のベンダー選定が行われることになる。5社のコンペが行われた結果、選ばれたのがナレッジオンデマンド株式会社(以下、ナレッジオンデマンド)のWikiWorksだ。

「評価のポイントとしては、運用コストとアイデアでした。また、編集機能への要求としてはWYSIWYG(見た目のままで編集できる)。執筆時にXMLタグを意識する必要のあるシステムでは、誰もが執筆できません。弊社では、将来的には設計者にも執筆してもらうことを考えていたので、ユーザフレンドリーである点が重要でした」(永友氏)

加えてDITAのように、コンテンツを部品化して新規の執筆や編集を少なくする工夫も求められた。「同様の内容でありながら、マニュアル毎に更新をかけている箇所が多くありました。複数マニュアルを横断的に一括で更新できる仕組みや、変更点だけ更新して新しい版を作る仕組みが必要でした。ただしDITAほど粒度を細かくは考えていませんでした。DITAのようにしてしまうと、今度は管理が追いつかなくなってしまう。だから、弊社の産業機械という特性に合った、ユニットという単位でコンテンツを管理していきたいという意向に、WikiWorksの概念がマッチしたということです」(永友氏)

5社コンペでは、各社一長一短あり、魅力ある機能もあったという。「しかし、総合的に見たときに、我々が進もうとしている方向性とアトラシアン社のConfluenceを軸にしたWikiWorksという執筆ツールが相性がよいと判断しました。あとは、カスタマイズの柔軟性が他社に比べて高かった」(永友氏)

“Customer First”
お客様の状況に応じてテキストや動画を配信する仕組み

WikiWorksでは、タグや構造化を意識することなく、従来のWordやFrameMaker同様に執筆作業ができる。完成した原稿は、紙に印刷するデータ、スマホ・タブレット・PCで閲覧するためのWeb用のデータ、工作機械の操作盤に表示できるデータと、それぞれの見せ方で最適化した出力が可能だ。このように1ソースから3種類のマルチユースの出力ができる機能に加え、工作機械の操作盤で表示するHTMLには一工夫がある。

「2次元バーコードを活用して、WebサーバにアップロードしたHTMLを即座に引き出すことができます。お客様は情報を探す必要がなく、機械状態に応じて表示された2次元バーコードを読むと、必要な情報が表示されます」(永友氏)

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執筆から編纂へ
執筆工数を大幅に下げる工夫

コンテンツの管理は機種毎ではなく、各機種を構成する要素である「ユニット」という単位で管理されている。トピック(ページ)をユニット毎に意識しながら執筆する。

「そもそも設計がユニット単位となっているため、マニュアルもユニット単位で共通化しやすいのです。ユニットに応じて共通のコンテンツを部品として用意し、共通化することで全体の執筆工数を下げることができました。これまではFrameMakerのファイルひとつひとつを開いて修正。コピーして持ってくることもありましたが、圧倒的に流用が容易になったと思います」(永友氏)

課題もある。MDS推進室ドキュメントチームリーダ横山佳代子氏は「どのコンテンツが流用して使えるかは、人が判断する必要があります。その判断は、製品全体を把握している人でないと、本当の意味では正確に判断できません」

現在のシステムでは、この課題をサポートする機能が用意されている。設計情報を参考に各機種のマニュアルの構成の把握を支援するデータベースだ。「コンテンツが増えるほど、全製品の情報を俯瞰的にわかっている
ことが要求されます。Webデータベースを今後強化していくことで、特定の担当者の知見に頼らなくても運用できる方向に進めていきたいと思います」(横山氏)

導入の効果と今後の展開

同社では複数のマニュアル専業会社が、マニュアル執筆のパートナーとして、同社と共同でマニュアル制作を行っている。
「パートナーからは、執筆の工数は確実に下がったという声を頂戴しています。我々も、原稿チェックの工数は大きく下がったと実感しています。工程表を確認すると原稿を完全に流用したパートは初めから完了のステータスになっているわけです。これ以外の原稿をチェックすることになるので、チェック工数は大幅に減りました」(永友氏)


現在、『定期保守説明書』マニュアルの執筆をWikiWorksに移行したが、今後はこれを『取扱説明書』『保守説明書』など、その他の分冊に展開していく予定だ。Webマニュアルは、日本国内、米国、中国において非常に多く閲覧されているという。「今後は動画をもっと増やして、利便性をさらに高めていきたい」(永友氏)

「産業機械の中でも画面でマニュアルを見るということは他社でもかなり出来ています。差別化といった意味では“Quality First”に加えて、お客様の利益を追求する“Customer First”を追求してきたいと思っています。それはただ単にお客様が欲しい情報を機械に入れたということだけではなく、欲しいときに欲しいものを即座に提供できる仕組みづくりを今後も取り組んでいきたい。マニュアルも、牧野フライスのブランドとして、牧野フライスの機械のマニュアルといえばWebマニュアルというふうなのがもう定番というか、定石になるようなものにどんどん拡張して、かつお客様がより使いやすいものになることを目指していきたいと考えています」(永友氏)